枕許にプレゼント
まだ私が学生だった頃の夏休み、猫に習って昼過ぎ迄惰眠を貪っていたのだけれど、 その猫(エリ−)が”ミャオミャオ”やたらと五月蝿い。
いつも一緒に寝ているので毎朝起こしてはくれるのだけれど、大抵は、すぐに諦めて階下の家人に餌をねだり、 外にお散歩に行くのが日課なので、そうしつこく起こすことは普段はない。
しかし、この時はかなりしつこく私の顔を舐め、身体の上で、足踏みをし、さらにはとどめと、足の指を噛む。 さらにこれを延々とくり返す。
さすがの私も起きようと思ってふと見ると、なんと枕許には、ボロボロになった鳥の屍骸が置いてある。
その横では、私をしきりに起こそうとしていた彼女が自慢げな顔で佇んでいる。
彼女はとってもおっとりしていて、生家では売れ残ったおかげで最後まで母猫と餌を独占できたにも係わらず、その食いっぷりから「ガッツ君」と呼ばれていたとは想像もできないほど気の好い女の子。しかし、その後、我が家にやって来た男の子(弁慶。通称ベン)とは違い狩りの才能はあまりなく、捕まえて来ても精々がイモリやすでにこと切れた蝉。普段は、家人の靴下を喰わえてウロウロしながら獲物を捕まえた気になって変な声で鳴いているだけ。
そんなわけで、彼女が鳥(雀)を捕まえたのは、後にも先にも、この時だけ。
初めて鳥を捕まえて、よっぽど嬉しくて見せたかったのだと思うと無闇に叱ることもできず。 かといってこんなことを繰り返されても困るしと思い、優しく「えらいねえ、でも持ってこないでね。」などと言い含めたのだけれど。
しかしそれも彼女エリ−に関しては全くの取り越し苦労。 彼女エリ−に関しては、というのは、彼女にとっては、先にも述べたようにそれが最初で最後だったから。
しかし、べん、彼もエリ−に負けずになつっこい。しかし、その機敏さには、エリ−は彼の足下にも及ばない。 よって、雀を捕まえるなどは日常茶飯事。もちろん雀に限らず、井守や蝉、はもちろん。
多い日には、3度以上も、雀や蝙蝠を捕まえてくる。しかも必ず我が家迄、お持ち返りして見せにくる。 おまけに殺さず、暫く遊んで、屋内で逃げられ、本人はそれを忘却し、新たに外に狩りに出るなんてこともショッチュウ。
つまり、私が、自分の部屋のクローゼットを開けたら、蝙蝠が飛び出して来たなんて事もあったわけで。
蝙蝠が、というか家の前の電線に並んでいる小さな黒い物体が、蝙蝠だったなんて、彼にプレゼントされる迄全く知識のなかった私なのに、コウモリを自分の部屋で飼っていたなんて。(蝙蝠も、間近で見ると思わず飼いたくなるようなカワイイ顔をしている。)
まあ、そんな彼、狩りは得意でも、狩られる方にも知恵がある。
我が家の庭には、そんな凶暴?な猫がいるにも関わらず、どういうわけかよく雀がやってくる。
>そんなある日、例によって、べんが眈々と雀を狙っている。
地面に舞い降りた雀に向かって、ほとんど腹這いになり、腰を少し浮かし左右に降りながら、じりじりと雀に近づき、雀が飛立とうとした瞬間、 あるいは、ベンの方が一瞬速かったのか、雀の飛びさろうとした位置にジャンプ。 次の瞬間、雀はベンの口の中。と、ここまでは、ベンが主役。
がそこへ現れたのが、正義の見方ならぬ数匹の雀。いかにも、ベンの気を引くように、彼のそばへ集団で、やって来た。
そして案の定、他の雀に気をとられたべんは、雀達の策略?どうり、他の雀を捕まえようとした瞬間に、 一度は捕まえ口に喰わえていた雀に迄逃げられてしまったのである。彼の射程距離にはもはや一匹の雀もいない。
主役と思っていたら一転して間抜けなヒール。
野生の動物なら、獲物を捕まえたら、止めを刺し、安全な場所にゆくまで気を抜かないというけれど、 これが、野生とペットの違いなのかと、妙に感心した次第である。

